汚れた顔の少女「哀しき夕陽、原作 能瀬敏夫」より
昭和十六年、東満州「東安」での生活が始まった。関東特別大演習いわゆる「関特演」が総力を挙げて大々的に行われたのもこの頃である。
私はこの頃、歩兵から主計へと兵科を変えて最初の仕事が、本部と現地との糧秣補給に関する連絡であった。
広い大地に虫けらのように動き回る人々を遠くから見ていると、はるか地平線に突如ソ連の戦車がむくむくと現れるのが想像されて慄然とした。
現地との連絡は馬に頼ることになり、私は片道凡そ半日をかけて、一人馬で往復した。途中に小さな部落があったが、その両側が湿地帯なので、崩れかけた土塀に囲まれた小さな部落の重なり合うような屋並の細い通路を通らざるを得なかった。
僅か七、八軒の低い家並みの部落を通るとき、私は馬上から各家を見下ろす形になるのだが、人影は殆ど見えず何やら不気味な気配が漂うようであった。
雨が降ると道は泥濘と化し、馬の蹄も埋まるほどだが、部落の各家は何れも窓が開け放たれたままなので、馬上から見ると如何にも土間の暗さが窺われた。
そんな細い雨の煙るように降り続く日の午後、ふと馬上から見下ろすと、窓際から少し離れた処で、私を見上げる幼い少女の目に合った、少女は習字をしていたらしい、汚れた顔ながら目はくりくりと愛らしく、そり返った筆の穂先を宙に浮かせてあ然と私を見詰めた
私は雑嚢からキャラメルを出し、そのひとつを自分の口に放り込むと、残りの箱をかざしてあごをしゃくった。少女は一瞬表情を崩すと視線を私から反らした。私はそのキャラメルの箱をぽいと窓から投げ込み、軽く手を上げて馬を進めた。
次の日雨は上がり再びこの部落の家並を見下ろすように馬を進めた。すると昨日の少女が、暗がりから這うように窓際に寄ってきて、今書いたらしい習字の紙を掲げて見せた。「人」という文字は驚くほど堂々と逞しかった。私は思わず「真好」と言った。
彼女は口元で×をして首を振った、口の利けない少女だったのだろうか、「人」という字の逞しさが、この口を利かぬ少女の心に宿る鼓動のような気がした。
それにしてもこの少女の、全く疑心のない素直さがたまらなく嬉しく、私の心を思わぬ温かさで包んでくれた。
私は軽く手を上げると再び馬に揺られて、広原の果てに沈もうとする、燃えるような赤い夕陽に向かった。
(シベリアへの抑留、極寒の地での凍土と病いとの戦い。生き抜いた者達へ渡された
「帰国の途」という切符とは・・・チチハル陸軍病院経理勤務、そして終戦。ハルピン
への移動・・・、病院開設・・・。傷病兵、難民で施設はあふれ、修羅場と化した。
「哀しき夕陽、原作 能瀬敏夫」)
AM6時20分

葦のかご教会水曜讃美祈禱会(2021年7月21日)能瀬熙至兄弟
https://www.youtube.com/watch?v=_M4MP_KELdI/
【賛美】主の計画の中で
Seekers (Within Your Plan
주님의 계획속에서
https://www.youtube.com/watch?v=NjUEbhpxJYE&feature=youtu.be
【賛美】いつもいつまでも
Seekers (Always
andForever
항상영원히까지
https://www.youtube.com/watch?v=MsfDBkdK3XQ&feature=youtu.be
【賛美】あなたが共に
Seekers (Together with God
당신이 함께
Eng,Kor sub)
항상영원히까지
https://www.youtube.com/watch?v=xTuqgreT0hg&feature=share
【賛美】善き力にわれ囲まれ
By loving forces
선한 능력으로,ENG/KOR sub
covered by Seekers
Eng,Korsub)
항상영원히까지
https://www.youtube.com/watch?v=2tCshyJunSM
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